gozaruさんのご要望に基づき、9/29に公表された日本工業検査のMBO
http://www.nikkoken.com/ir/img/kaituke.pdfについて私なりに分析してみました。
最初は軽い気持ちで数字だけなめるつもりだったのですが、なんだか数字がいろいろと合いません。
想像&推理していくうちに、とある結論にたどりつきました。
・このMBOは社長の資産管理会社を救助するため、財務内容が
健全な対象会社と借金漬けの資産管理会社を合併させる目的
で企図されたプロジェクトではないか?
・TOB価格も、おそらくローンに引きづられてギリギリ低く設定
されており、恣意性が感じられる。
あと、本件、発表直前にインサイダー取引があったように感じられます。
以下、詳細
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公開買付者は(有)弘林。典型的なオーナーの資産管理会社で、既に対象会社の7.81%(345,600株)を保有しています。
あれ? ヴァリアント・パートナーズというPEファンドの資本が入るのに、そのままオーナーの資産管理会社を使うんですね。変わってるなぁ・・・。ヴァリアント・パートナーズ
http://www.valiant-partners.com/は元MKSの加藤氏、櫻井氏が立ち上げたファンドで、2007年5月のANZEN(タクシー)、2007年11月の阪神調剤(薬局)に続く3件目の投資案件のようです。
小所帯のようですが、頑張っていますね。なかなか案件を獲得できないPEが多い中、ソーシングが出来ているようです。
(個別投資案件の質までは私にはわかりません。ANZENは原油価格高騰などで苦労しているかもしれませんが、阪神調剤はストラテジックバイヤーに売れそうなので、EXITできそうな気がします。)
必要金額を計算します。
発行済株式総数(4,423,420 株)から、公開買付者の保有株数(345,600株)と対象会社が保有する自己株式(101,604 株)を除いた3,976,216株をTOB価格@2,400円で買付けるので、約95.4億円必要となるはずです。既存借入が約5億円ですので、EV(Enterprise Value。企業価値。買収時価総額と既存借入金の合算)は約100億円になります。
エクイティ部分は、林社長がTOBに応募して約8億円、ヴァリアントが約20億円(いずれも公開買付者に後で出資する形式のようです)ですので、ローン部分は約72億円になります。
(ここでは、公開買付者が元々所有している金銭はわからないのでゼロと仮置きして計算しています。)
この、ローン72億円というのは、
> 株式会社三菱東京UFJ銀行並びに日本政策投資銀行から
> 最大で139億円を調達という記載と合致しませんが、これは、
・林社長の増資分はTOB応募額からの拠出となるため
当初は払い込まれないこと
・こういった場合の銀行のコミットメントレターは、
MBO後に必要となる運転資金(コミライン)や
設備投資資金(CAPEXライン)の金額分も合算
した金額をコミットしているから
という理由から来るものかと思います。
それにしても多いな、このBTMUとDBJのコミット額である139億円って。
・・・わかりました。
おそらく公開買付者である(有)弘林に40~50億円ぐらいの既存借入金があるに違いありません。対象会社の運転資金(コミライン)は、せいぜい10~20億円程度あれば足りるでしょうから。
LBOローンにおいては、対象会社や買収会社にそのLBOローン以外のレンダーが存在することをコベナンツ上許容しません。よって、全ての借入は返済する必要がある為、LBOローンはそれだけ膨らむことになるんです。
つまり、この139億円の資金使途の構成は、
・TOB資金 72億円
・TOB資金だけど、後で林社長増資で返済予定の 8億円
・公開買付者の既存借入 44億円(net debt)
・非公開化後の対象会社の運転資金枠 10億円
(これはコミラインなので当初は融資実行しません)
・本件諸費用 5億円
てなカンジになっているんじゃないでしょうか。
対象会社が年商100億円ぐらいなので、運転資金枠はまぁ10億円ぐらいあれば充分と思われます。
この
公開買付者である(有)弘林の有利子負債として40~50億円というのは、ちょっと多額すぎる気がします。
公開買付者の「(有)弘林」の本社、
神奈川県川崎市多摩区宿河原四丁目19番21号
をGoogle ストリートビューで見ると・・・、ただの田舎の一軒屋っぽいところです。これはあまり不動産価値ないでしょう。
ははぁ、
これはいわゆる"すかいらーく"パターンかもしれないですね。
銀行から見て永年の問題先であった横川氏(すかいらーくの前社長)の資産管理会社がついにどうにもいかなくなり、窮余の策として取られたのがすかいらーくとの合併。その合併のためにMBOをしたのです。本件の場合も、
林社長が運営する日本工業検査と、その林社長の資産管理
会社である(有)弘林がありましたとさ。何をしたか知らな
いが、(有)弘林には有利子負債がどんどん溜まり、メイン
バンクの三菱東京UFJ銀行からは『担保価値がないので、
そろそろ借金を返してください。無理だったら・・・
MBOはいかがですか?』と言われる。しょうがない、
(有)弘林の借金を返すために、日本工業検査をMBOさせるか。という風にBTMUがMBOさせ、要注意先だった(有)弘林から借金を返済させるというような話があったりして。
そう思った根拠は、
・
当社は近年業績が伸びてきているんだから、非公開化する
理由があまり見当たらない。 ・
ヴァリアントは(有)弘林という器を公開買付者にすること
を当初嫌がったはず。だって、そんなわけのわからない
会社を使うと、ドコに簿外債務があるかわかったもんじゃ
ないから。なのに、(有)弘林が器になっている。
それは、
(有)弘林を器にしないといけない理由があった。
です。
冒頭で私が、『ヴァリアント・パートナーズというPEファンドの資本が入るのに、そのままオーナーの資産管理会社を使うんですね。変わってるなぁ・・・。』と思ったのは当然で、
実はこの(有)弘林を助けるのが本件MBOの真の目的だったのかもしれないのです。ファイナンスも検証しておきます。
対象会社の2008/3期の
EBITDAは約14億円です。対象会社と公開買付者の合併した新会社に引き継がれる有利子負債は、残高ベース(運転資金のコミライン10億円、林社長出資 8億円を除く)で121億円。
ただし、対象会社には2008/6月四半期ベースで、14.7億円の現預金、14.5億円の投資有価証券があります。投資有価証券が7割で現金化できたとすると、現預金 約25億円となり、上記の有利子負債121億円とのネット(net debt)で
96億円(ここを"パーマネントローン部分"と呼びますね)。
これはEBITDA 14億円の6.9倍になります。
これはキツイですね。
ネットデットのレバで6.9倍というのは、レバ掛かりすぎ。ここでもう一度推理します。
EDINETの公開買付届出書を見ると、BTMUのコミット額は107.5億円、DBJは31.5億円です。
わかった。DBJはメザニンなんだ。パーマネントローン部分が96億円だから、DBJ(メザニンローン)の31.5億円を除くと、BTMU(シニアローン)の金額は64.5億円。これはEBITDA 14億円の4.6倍です。
シニアのネットデットレバが4.6倍。メズは深いところで8.6倍(コミラインを使った後ならトータルデットが121億円だから)。
ああ、これならなんとかなるのかも。すごーくギリギリの線なんだけど。いや、やっぱりギリギリアウトかもしれないけど ^^;
メザニンローンは金利高いでしょうね。
DBJは今般の民営化で、商業銀行とは違う、投資会社として生きる道を望んでいますので、Equity Kick(株式転換権または株式取得権)の付与も要求したかもしれません。
少なくとも、PIK(Pay In Kind。金利を元加する方式)にしたでしょうね。細かい計算はしませんが、cash payだとDSCR(約定返済と利息を払う能力の指標)チェックに引っかかりそう。
というギリギリのローンの状況を踏まえ、TOB価格も検証。
TOB価格は、@2,400円なので、過去1ヶ月間・
3ヶ月間・6ヶ月間の単純平均値に対するプレミアムがそれぞれ、約39%・
約39%・約42%だそうです。
これは厳しい。
ホントにギリギリですね。
「このTOB価格までしか出せない。だって、BTMUとDBJがローンつけてくれないんだから!」という状態になり、
既存株主に対していくらのプレミアムを払うべきという観点より、ローンがつくか・つかないかが主眼になってTOB価格を決定したのではないでしょうか?(よくあることですが。
レンダーはTOB価格が下がってくれたほうがレバが下がるので稟議を通しやすいですから。
当然、ファンドや社長も今後追うべき借金は少ないほうがHappyですしね。)
つまり、
・このMBOは社長の資産管理会社を救助するため、財務内容が
健全な対象会社と借金漬けの資産管理会社を合併させる目的
で企図されたプロジェクトではないか?
・TOB価格も、おそらくローンに引きづられてギリギリ低く
設定されており、恣意性が感じられる。といえます。
日興コーディアル証券もさすがにこういった行動を見咎め、
公開買付成立要件をオーナーら(67.63%の株式保有)以外の株主の半数以上が合意していること と厳しく設定させたのではないかと推察します。
でも、MBOってそんなもんなんでしょうね。
流動性が低かったり、同族企業だったり、買収防衛策を導入したり、とにかくマーケットに向き合っていない企業の株式を興味本位で買う方も考え直さないと、どんどんこういった輩にコケにされるのではないかと思います。
公開買付期間は30日間。
上記の理由でたくさん応募して欲しいでしょうからね。
でも、敵対的買収者が出てきても困ると。微妙な日数設定です。
合併方法は・・・。
おや、これは変わってます。
全部取得条項付種類株を発行するという小細工をせず、正々堂々と
会社法の金銭交付合併で来ましたか。当然、スクイーズアウトするときに完全子会社ではありませんから、非適格合併となってしまい、税務面でcash outが発生する可能性があります。
これは初めて見ました。
最近、税務署が適格合併に持ち込まれたスクイーズアウトを疑問視しているとは聞いていたんですが、ここまで潔いのは珍しい。
もしくは、投資有価証券や不動産で損失が出るのなら、非適格合併で発生する益とぶつけることでcash outを防ぐこともできます。
この辺は当事者たちでないとわかりませんね。
おまけ。
この図を見てください。
http://quote.yahoo.co.jp/q?s=9784.q&d=c&k=c3&c=998405.t,23337.q&a=v&t=3m&l=on&z=m&q=l9/29にMBOを公表する数日前から、商いを伴って対象会社株式が上昇しています。
TOPIXもJASDAQ指数も下落しているのに、当社株式はなぜか上昇。
ギリギリまで銀行がローンつけれるかどうかわからなかったのが、数日前に全てのことがうまくいくと知った人が、フライングで対象会社株式を買ったのかもしれません。
ちゃんと刺して下さいね>証券取引等監視委員会仕事してくれヨー。